臥せる竜の山「臥竜山」

臥竜山(金沢市卯辰山)
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街を歩くと

もう一つの別名

卯辰は、(ふ)せる

別名「臥竜山」と呼ばれる卯辰山。稜線は竜が伏せているように見える?=北國新聞会館21階から島根県の女子大生が遺体で見つかった事件の現場は広島県北部の臥竜山(がりゅうざん、標高1223メートル)。難航する捜査が伝えられる事件の現場はどんなところなんだろうと同僚の記者と話していると、「金沢にもあるげんぞ」とデスクが一言。まさか事件、と思いきや、それは山の名前だった。いったい、どの山?

市内の山と言えば、卯辰山、医王山、野田山、戸室山、キゴ山が思い浮かぶ。どの山へ足を運んでも手がかりは見つからない。デスクに降参するのもしゃくだ。

ある人に聞こう。金沢検定上級合格者で金沢観光ボランティアガイド「まいどさん」として活躍する谷村憲夫さんは「卯辰山のことやね」とあっさり。

卯辰山には「臥竜山」の別名があるのだ。「字の通り『竜』が『臥(ふ)せる』。卯辰山の稜線(りょうせん)がそんあ風に見えるから、そんな名前が付いたんでしょう。一説では戦国大名上杉謙信の軍勢が名付けたとも言われとるね」と谷村さんは教えてくれた。

同じ呼び名の山は全国にあるそうで、試しに国土地理院のホームページで検索すると、遺棄事件の現場となった山が「臥竜山」として載っているほか、秋田、長野、岡山に「臥竜山」が見られた。

「臥竜」の付くものは、臥龍大橋(山形)臥龍のサクラ(岐阜)臥龍岩(群馬)などがあった。玉川図書館近世資料館によると、卯辰山は金沢城に向かい合っていることから「向山(むかいやま)」「夢香山(むこうやま)」、あるいは「茶臼山」などの別名があるという。

馬場小の校歌の一節にも「臥竜山」は歌われているあらためて標高141メートルの卯辰山を望むと、尾根は滑らかな曲線で竜が横たわっているように見えてくる。ちなみに広辞苑で「臥竜(がりゅう)」を繰ると、「野に隠れて世に知られぬ大人物」とある。

金沢人なら誰もが知っている卯辰山=臥竜山が、いつまでも心が安らぐ山でありますように。(大田こころ)

(北國新聞 2009,12,22)

卯辰山は臥竜山(臥せる竜の山)
卯辰山は臥竜山(臥せる竜の山)「北國新聞」2009年12月22日

泉鏡花の作品に書かれた臥竜山と五本松

泉鏡花の小説「町六(まちすごろく)」のなかに、臥竜山にそびえる「五本松」の記述があります。

小山を切通しの細い石段が、落葉の鱗、青苔の紋を染めて、龍の斜めに臥したる状ある、一ツ小山の頭に、城下十萬軒の門松を取つて、一束にしたるが如き、根より五株、中空に聳えた松がある。

(泉鏡花「町雙六」)

龍のななめに臥したようなさまをした小山の頭に、城下町のすべての門松を取ってきて一束にまとめたように、根っこから5つに株わかれして、虚空にそびえる松があると。

泉鏡花の小説「町六(まちすごろく)」のなかに、臥竜山にそびえる「五本松」の記述があります。

小山を切通しの細い石段が、落葉の鱗、青苔の紋を染めて、龍の斜めに臥したる状ある、一ツ小山の頭に、城下十萬軒の門松を取つて、一束にしたるが如き、根より五株、中空に聳えた松がある。

(泉鏡花「町雙六」)

龍のななめに臥したようなさまをした小山の頭に、城下町のすべての門松を取ってきて一束にまとめたように、根っこから5つに株わかれして、虚空にそびえる松があると。

「龍のななめに臥したる状(さま)ある、一つ小山の頭(かしら)とは、臥竜山にある宝泉寺の境内のことで、そこにある根より5株にわかれた松の巨木が宝泉寺のご神木「五本松」であることは言うまでもありません。

 カチリ/\と、其處とも分かず、高き梢に羽子の音が幽に響いて、瞰下す町家は、道條も、屋根の數々も、急に此の緑の影に、薄暗く成つて颯と風。 ーー

 魔所なのである。

(泉鏡花「町雙六」)

松の緑の影に、一陣の風が吹く。

ここは、魔所であるという。

魔所とは、妖魔が住むと考えられた所。鞍馬の僧正谷、大和の大峰などは有名。

宝泉寺の境内は、ちまたでいう「パワースポット」という範疇におさまる場所ではありません。ここは臥したる竜の頭、正真正銘の霊域です。ここから竜が金沢城に向かって気を吐きます。

鋭敏な感性でキャッチした鏡花が恐れをもって、この霊域が持つ力を認知されていたのです。

それが魔所という表現です。

臥竜山(金沢市卯辰山)
臥竜山(金沢市卯辰山)宝泉寺境内は、臥したる竜のカシラに相当します。五本松が竜のヒゲにたとえられています。
金沢 摩利支天 宝泉寺 オンマリシエイソワカ
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